授業評価(振り返り会)をワークショップ形式で実施
これまで授業改善や汎用的能力の成長の可視化を目的として、ルーブリック評価や尺度を使ったアンケートなどを実施してきました。現在の授業スタイル通しての生徒たちの変化を数値で確認したり、授業改善のヒントも得たりしてきました。今回は、生徒がより主体的に関わり、実感を伴って自らや仲間との活動について気づきを共有することを意図し、ワークショップ形式での活動を振り返り会(評価)を行ってみました。
ここでは、ワールドカフェを意識しましたが、50分授業内での十分な実施は、今回は難しいと判断し、単一のグループの活動を主としました。
【テーマ】
ラウンド①「これまでの生物の授業を通して、どのような面で成長できたと感じますか?」
ラウンド②「これから生物の授業を受ける後輩に向けてどのようなアドバイスをしますか?」
【ワークの流れ】
1.研究授業での活動の様子をビデオで振り返る(5分)
2.本ワークの目的と流れについて説明(5分)
3.テーマ①について、個人思考後(5分)、グループでディスカッション(10分)、クラスでの共有(5分)
4.テーマ②について、同様に進める。(20分)
【生徒のコメントより(一部抜粋)】
テーマ①「授業を通して、成長できたこと」
・グループでの深め合いで、内容をより理解できました。
・相手の話に耳を傾ける力や、物事を関連付ける力が付きました。
・話し合いを何度もするうちに、班のメンバーが変わっても良い雰囲気、良いリズムが崩れずに活動できるようになった。
・一人一人が積極的に学び、発言できるようになった。
・疑問点がすぐに思いつき、何事でも関心が持てるようになった。
・グループワークが主なので協力する大切さや、その中で分かりやすく説明しようと個人活動にも力を入れることができるようになった。
・初めてこのような授業を受けたので、最初は戸惑うこともありましたが、回数を重ねると慣れてきて、自然とみんなで協力し、一体感のある授業になっていった。
・単語同士をつないで理解したり、関連づけが出来るようになった。
テーマ②「後輩に伝えたいこと」
・まず自分で考えて、少しでも疑問に感じたところは、班の人に聞きましょう。
・自分の意見をしっかり持ちつつも、他の人の話に耳を傾けると新しい考え方が出てくる。
・授業内容を今までの生活などと関連付けると、もっと濃い内容になる。
・自分の意見と他の人の意見を尊重する。
・興味を持って疑問を出し、自分なりに解決することで、思考力が身につき、自分の生活や生き物を面白く感じる!
・疑問に感じたことは、尋ねていくことで自分の担当以外のところも理解を深めることができる。
・最初は慣れないかもしれませんが、自分の意見と他人の意見を組み合わせたりすることで、新しい考えが生まれたり、幅が広がります。自分の意見を持ちましょう。
・頭を柔らかくして考えましょう。
・最初だけは、仲の良い人と座る方がオススメ
最初の頃は、数名からAL型授業に対する反発も出ていた3年生ですが、今回もワイワイ楽しみながら活動し、このような意見があちこちから出て来るまでになりました。生徒の様子を見ていると自信が付いてきていることも分かり、卒業に向けて着実に歩んでいるなと感じます。
2年生は、4月当初AL型授業に対する反発も無く、人数も3年生の半数くらいになります。また違ったアプローチが必要なのかもしれません。現2年生を育てていくことが、これからの当面の課題となります。
なお、生徒が活動中に使った模造紙は廊下に貼って、意見を共有したり、AL型授業の様子を他の先生方に示したりするための資料として活用しました。
【福岡】校外でのAL職員研修の講師を務めました
学びの仲間との繋がりから、県外の他校でのAL職員研修という貴重な機会をいただきました。約3時間半の時間をいただき、歓迎していただけたこと、感謝です。
【研修会のメニュー】
Ⅰ.導入からミニ授業体験
1.自己紹介、アイスブレイク(10分)
なぜALをスタートしたのかという点からさらりとお話をした後、グループ内のチームづくりのためのアイスブレイクを実施。ここでは、職員研修の鉄板となりつつある、カタルタなどを利用しました。
2.質問づくり、 ALの背景解説、PKT(30分)
現在の状態を把握し疑問を言語化することを目的に「ALに関する質問づくり」を実施。授業時と同様に「今回の講座で納得する答えが得られるか分かりませんが、ここでの質問も意識され途中で話しあったりもしながら、ワークショップにご参加ください。」と伝えました。
その後、なぜALが盛んに言われるようになったのか、その背景について簡単に説明を行いました。私が話し終わった後、参加者同士で感想・意見をシェアするためにPKT(ペチャクチャタイム)を実施。その中で生じてきた気になった点について幾つか質問を受けました。
3.看図アプローチの授業体験(30分)
セーターを着たペンギンでの看図(こちらも鉄板ネタですね)と、もうひとつのネタ(大人向け?)にて看図体験をしました。この体験後、休み時間中にリフレクションシートの記入をお願いしました。
Ⅱ.授業体験
1.「生物」授業体験(50分)
授業はレギュラーに近い形で行いました。①セットアップ、②KP法+Keynoteでの解説(1)、③看図、④KP法+Keynoteでの解説(2)、⑤ミニジグソー、(⑥関連づけ)、⑦確認テスト&リフレクション。ここでは、先生方に生徒の立場で授業に参加していただきました。
2.授業見学シートの記入(10分)
小林昭文先生が提唱されている「授業者を傷つけない振り返り会」を行うためのシート作りを、今度は教師の立場から振り返り記入していただきました。ここから緩やかに休み時間となりました。
Ⅲ.振り返り会&まとめ
1.「授業者を傷つけない振り返り会」(30分)、2.リフレクション(30分)
司会を立てていただき、振り返り会の手法に則って振り返り会を実施しました。その後、個人でのリフレクションを行い、再度グループで共有後(PKT)、質疑応答を少し実施。最後に少しだけコメントをして終了しました。
【感想・コメント(一部抜粋)】
・楽しい体験授業をありがとうございました。実験風景を見ている気分で、普段の授業でも取り入れたいと思いました。振り返り会は、誹謗中傷的になりがちですが、そうではないの振り返り会が一番良かったです。
・想像以上にアクティブに脳内をフル回転させるような授業でした。
・単身他校に乗り込んで研究授業を行う事自体が畏敬の念を禁じ得ません。たくさんの資料と準備をありがとうございました。
・生徒同士、教員同士が個々を尊重しあう気持ちを持つことが一番大切だと分かりました。
・ファシリテーターの役割がなんとなく分かり、目的意識を持って取り組むことで進度も維持できるということが分かりました。
・念願の先生の授業を受けられて楽しかったです。様々な手法を取り組んで実践されている姿は、まさにこれからの社会が求めている先生像です。
・昔のグループ学習は、意識的に対立を作り出すことが多かったが、先生の集団づくりは、力を合わせることに主眼があって、新鮮でとても良いと思いました。
・授業観が180°に近いくらい変わった。自分の全く知らない領域で少し怖いけどやってみたい。
・振り返り会で、先生の体験談が聞けて良かったです。これからも参考にさせてください!
・ALをまだやっていませんが、興味を持っていて楽しくやることができました。看図やジグソー活動も楽しく学ぶことができました。
・アクティブラーニングのスタイルは、教育の原点で古代ギリシアの哲学者など多数で、今教育、学びの本質が問われているのだと感じた。
・スウェーデンでは「学ばせるのが上手な先生が褒め言葉」という言葉を聞き、自ら学ぶ授業を考えました。今回先生の授業を見ることができ、自信になりました。
・教科は音楽ですが、1つの解釈や答えがなく、各個人の個性や創造性を活かせる教科であり、今回学んだ学習法・形態を今後の教育活動に活かしたいと思います。
・教えすぎないことの大切さを学びました。高校の授業ではALは難しいと思っていましたが、考え方を改めました。
・ちょっとした工夫で生徒に主体的に学ばせることができるのだと思いました。手間についても私が想像していたよりはかからないように思いました。
・授業中に説明すると「分かった」という生徒も、いざ解くと分かっていないことが多くて、うまくアウトプットさせられていないなと思っていました。自信がある生徒しかしゃべらず…。みんながしゃべれる状況を作ればいいのだとわかりました!
・毎年新しい授業を模索しているので、来年、出来れば今年から徐々に取り入れたです。
・アクティブラーニングについての理解が不十分であったとわかりました。理解できた、分かったという気持ちを共有することの大切さを学ばせていただきました。
・アクティブラーニングについては、耳にしてもなかなか想像できないスタイルだけに楽しみにしており、結果よく分かり楽しかったです。放牧型の授業ではなく、この達成感を生徒たちにも与えることができるのなら良いと感じました。
・説明の言葉がシンプルで、とてもわかりやすかったです。教科書を使いながら生徒に理解をさせ、説明させるという流れはとても素晴らしいと感じました。
・化学物質に自由意志があるような記述に感じて、そのことを共有した結果、よりよい議論ができました。
・進度が上がる、生徒とコミュニケーションが取りやすくなるのは嬉しい!
・すべての科目で実施可能な、自然な学びである。
・アクティブラーニングに対するハードルがずいぶん下がりました。
・学んで欲しいことへたどり着くまでの流れがとてもスムーズでかっこ良かったです。より良いアクティブラーナーを目指してお互い頑張りましょう!
【今回の振り返り】
普段やっている授業スタイルや振り返り会で、実施する際に、初めて経験されることを強く意識して丁寧なガイダンスをすることでより流れがスムーズになると感じました。例えば、最後に確認テストをしますという点や、振り返り会では教員視点で行いますという点を、早い段階で伝えておきたいと思いました。
教育に対する情熱を持った先生方で雰囲気もとてもよく、気兼ね無く講師を務めることができました。また、機器のトラブルもありましたが、すぐに対応をしていただき、無事に乗り越えることができました。参加された先生方の温かな協力に心から感謝したいと思います。
【参考文献】
LTD型オンライン読書会実施 ~課題図書「今日からはじめるアクティブラーニング」~
はじめてのオンライン読書会を実施しました。ここでは、「今日からはじめるアクティブラーニング」の第2章を予め、LTDの手法に則って予習する形で実施しました。それぞれのペースで取り組まれた上で参加されていましたが、活発な交流を行うことが出来ました。なお、会に先立ちmoodle内での自己紹介と相互コメントを実施しています。
【オンライン読書会の流れ】
1.オンライン読書会とLTDについての説明(10分)
2.LTDの手法に則り進行(時間は目安です)
Step 1 導 入 : 雰囲気づくり(3分)
Step 2 語いの理解: ことばの定義と説明(3分)
Step 3 主張の理解: 著者の全体的な主張の討論(6分)
Step 4 話題の理解: 話題の選定と討論(12分)
Step 5 知識の統合: 他の知識との関連づけ(15分)
Step 6 知識の適用: 自己との関連づけ(12分)
Step 7 教材の評価: 学習課題の評価(3分)
3.自由な意見交換(30分)
Step 8 活動の評価: 学習活動の評価(6分)
Step2~4は、収束過程であり、自らの考えなどは入れられないためやや窮屈な感覚もありましたが、同じ文章を読んでいても、それぞれの関心などが異なるため一人で読むよりもより広く深く読めるような感覚を覚えました。
Step5~7では、これまでの経験や実践、似た理論などとの関連付けが進み、様々な視点から本の内容を越えて理解を深めることが出来ました。さらに、最後に自由な意見交換会を設け、校内でのAL普及に関する話題など本当に楽しく意見交換をすることができました。
漠然と行っていたALを一度類型化の型で捉え直すことで、自らがどの段階でのALを目指しているのかがわかるという気付きが出されたり、コルブの経験学習モデルなども含め、円ではなく螺旋状に進んでいくという理解やその形状などについても活発な意見交換が行われました。
さらに、最後には習得と活用の型をひたすらにまわすことでコンピテンシーが磨かれていくこと、多様性を認め合えるような自然の状態に近づいていくことが出来るのではないかとコメントが出された。
レポートやリフレクションについては、再度moodleに投稿してコメントを付け合うようにしました。
オンライン読書会、LTDの完全実施、新しいビデオ会議システムの使用など、新しいことばかりでしたが、ファシリテーションの心得のある意識の高い方々が集まり、心地よく学び合うことが出来ました。LTD型オンライン読書会については、学びの深まりや活発な交流、さらに地域を越えた繋がりにとっても有効であることが確認できました。さらに可能性を探っていきたいです。
場を提供していただいたり、参加していただいたみなさん、素敵な学びの場を本当にありがとうございました。
【参考文献】
安永 悟、須藤 文(2014.10)「LTD話し合い学習法」ナカニシヤ出版
安永 悟「LTD 話し合い学習法」JUCEJournal 2011年度 No.3
http://www.juce.jp/LINK/journal/1201/pdf/02_01.pdf
【課題図書】
小林 昭文、成田 秀夫(2015.9)「今日から始めるアクティブラーニング―高校授業における導入・実践・協働の手引き」 学事出版
公開授業 経験学習モデルをまわす仕組み~リフレクション⇔セットアップ~
公開授業に合わせて、校外から7名の先生方に参加していただき、研究授業を行いました。今回実施した授業を含め最近は、国際キャリア教育学会の会期中等に研究者や実践者の方々との交流で得たヒントも新しく取り入れてみました。
【授業の流れ】
1.【セットアップ】個人思考→グループ活動(全2分)
・今日の活動をどのような雰囲気で進めたいか?
・その雰囲気をつくるために自分がすることは?
→ 1人一言で発表する
2.【質問づくり】個人思考(2分)→グループ活動(5分)
・「質問の焦点」に対する質問を個人で出来るだけつくり出す
・グループ内で発表後、ベスト3を決定する
3.【解説・看図アプローチ】KP法とKeynoteでの要点解説、クイズ(全15分)
・植物の反応について説明後、ドラセナの写真を示しクイズを出題
4.【ミニジグソー】個人思考(4分)→ジグソー活動&バズ(10分)
・解説した範囲を4つに分けて、教科書を利用して説明しあう
・全員が説明後は、質問などを通して理解を深める
5.【キーとなる質問】4の流れで、個人・ペア・グループで記述問題に取り組む
6.【関連づけ】個人思考(3分)→グループ活動(4分)
・2でつくった質問を1つ選び、考察や解答を考える
7.【確認テスト・リフレクション】(5分)
・確認テスト…選択問題、◯☓問題
・リフレクション…学習内容、学習過程の振り返り
コルブの経験学習モデル(経験→省察→概念化→実践)をまわすために、前時のリフレクションと授業開始時の活動を直接繋げる工夫をしています。リフレクションでは、「【成功】授業中の小さな成功は何ですか?」と「【気持ち】そのとき、どのような気持ちがしましたか?」「【挑戦】次の授業で挑戦したいことは何ですか?」を尋ねるようにしています。
そこでの気づきをもとに、リフレクションカードを見ながら、授業開始時に行動の宣言を行うことにしました。この結果、チームで気遣ったり、お互いに励まし合ったりする様子が、加速したように感じています。個人のパフォーマンスも上がっているようです。
質問づくりでは、4回ほどの練習を行っているため、短時間でたくさんの質問を出して話し合い、ベスト3を出すまでの時間は7分程度でできるようになりました。ここでの活動は、初めて見られた先生方には驚異的だったようで「事前に次行うことを伝えたり、考えてくるように話したりしていたのですか?」と質問を頂きました。もちろん、生徒たちは全く知らない状態で質問づくりをしています。
看図アプローチでは、ドラセナのぐるぐる巻きの写真を示して、植物の5つの屈性のうちどの性質を上手く利用してつくることがあるかを考えてもらいました。
選択肢( 重力屈性 ・ 光屈性 ・ 接触屈性 ・ 化学屈性 ・ 水分屈性)
ここでは、重力屈性を正解としましたが、他の選択肢についても完全に間違いとはせずに可能性などについて言及しました。
ミニジクソーとキーとなる質問では、個人思考で、話の量をそろえた後にグループでの発表とディスカッションの時間としました。ここでは、理解が難しいところなどを互いに質問しながら活発に話し合いが出来ていたようです。
関連づけでは、質問づくりの活動で、自分たちでつくり出した質問を学習内容と関連付けながら、解答を作ったり、また正解は出せなくても考えられるところまで考察したりする活動を行いました。このとき、ダニエル・チャモヴィッツ著「植物はそこまで知っている」の書評を配付して考える材料を提供しています。
最後の確認テストでは、学習内容を振り返ることを重視しており、難易度は高くない問題で構成されています。リフレクションでは、自分自身が学習を通して、どのような力を発揮し育むことが出来ているのかを確認できるようにしています。ここでは、自己肯定感の醸成やそれぞれの強みを育成すること、チームづくりを意図しています。
【生徒のリフレクション(成功・気持ち)】一部抜粋
1.成功体験と気持ち
◯きちんと質問ができ、解決することができた。 → すっきりした。
◯皆の意見を尊重できた。 → 嬉しかった。
◯質問に対して、考察ができ答えに近づけた。 → もっと知りたいと思った。
◯チーム全員がわかりやすいようにまとめて話せた。→新しい考えがたくさん出て良かった。
◯グループ内の意見をまとめて、一つの答えをだすことができた → グループワークの大切さを感じた。
◯活発な班づくりが成功した。 → 一体感が生まれた。
◯自分の意見を堂々と発表できた。→ なるほどという反応をもらえて嬉しかった。
◯昨日より深い質問をすることができた。→ もっとたくさん考えたい。
2.挑戦したいこと
◯友達の意見や質問を取り入れて学習する
◯自分の意見をうまくまとめる
◯これまでの知識とも関連付けを考察したい。
◯もっとわかりやすいように絵などを工夫していきたい。
◯もう少し科学者的な思考で質問したい。
◯最初の問題を作るときに、内容を濃くしたい。
【見学された方のコメント】一部抜粋
◯セットアップ時の生徒の反応が良かった。
◯教科書を読み解いて説明することが自然とできていて驚いた。
◯活動内容がホワイトボードやプリントで確認できて、わかりやすい。
◯看図アプローチが効果的であり、KP法もよく要点が押さえられていて無駄が無かった。
◯生徒同士の切り返しが早く、間違っても良いんだよという雰囲気が作られている。
◯相互承認をする雰囲気づくりを行っていることがよく伝わった。
◯読めば分かるところは自分達で学習することが出来ていた。
◯いろいろなコンテンツがあらかじめiPadに入れてあり、必要に応じて提示していた。
◯質問づくりから、学習内容との関連づけの流れが見事であった。
◯ファシリテーターになるという目的が良いなと感じた。
普段から学習会などで交流のある先生方の訪問で、振り返り会も和やかに進めることが出来ました。また、生徒の様子について、たくさんコメントをいただき、あらためて生徒の成長を感じることができました。参加された先生方ありがとうございました。
【参考文献など】
中島久樹(2015)「会議でぜひ試してください!セットアップと言う考え方」http://hisa-magazine.net/blog/merumaga/setup/
辰巳哲子(2015)「社会人の基礎力に影響する高校での経験」IAEVG International Conference2015
ダニエル・チャモヴィッツ著、矢野真千子訳(2013)「植物はそこまで知っている-感覚に満ちた世界に生きる植物たち」河出書房新社
『たった一つを変えるだけ―クラスも教師も自立する「質問づくり」―』を授業にて実践
『たった一つを変えるだけ』で紹介されている、質問づくりのワークをそのまま実践してみました。
質問づくりについては、昨年度の教科通信の中で試みましたが、質問の質の向上がいまいちでした。また、1学期には、班内のコミュニケーションの活発化を意図して問題づくりをしましたが、こちらが意図するような結果には至らず、この活動はいっとき保留しておこうかと思っていたところ、よい本を知り合いの先生から紹介していただきました。
ルールや質問の価値の検討ワークについても実施。普段とは違う課題に戸惑いながらも比較的よく取り組めていましたと思います。
質問を作る際には、今回は『筋肉の収縮。ただし、科学的な思考にのっとること。』をテーマ(質問の焦点)に質問づくりをしてもらいました。生徒たちが、作った質問を一部紹介します。なお、次の4つのルールに従って進めています。
(ルール)
① できるだけたくさんの質問を出す。
② 話しあったり、評価したり、答えを言ったりしない。
③ 発問のとおりに質問を書き出す。
④ 肯定文として出されたものは疑問形に転換する。
【生徒の作った質問(一部抜粋)】
・一番縮まない筋肉はどこか?
・筋繊維1本で、どれくらいの大きさや重さまでになるのか?
・人間に背骨がない場合には、どのような筋肉がつくのだろうか?
・筋肉を動かすとき、かならず収縮する必要があるのか?
・脳のはたらきと筋肉の収縮の関係はあるのか?
・筋収縮の結果、乳酸はどこに蓄積されるのか?なぜ痛むのか?
・足がつることと収縮の関係は?
・筋収縮は、エネルギーを消費するのみなのか?
・火事場の馬鹿力のときの筋収縮の仕組みは? などなど
「閉じた質問と開いた質問への分類」、「質問の形態を変換(閉じた質問⇔開いた質問)」を実施後、質問に優先順位をつけるワークを行っています。ここでの基準は、『高校生物の理解を深めるために有効な質問』を示しました。最後にはリフレクションを記述してもらいましたが、普段のリフレクションとは異なるコメントも多く見られました。また、次の時間には、授業での内容と自ら作った質問を関連させながら考察をしている生徒も見られました。
【リフレクション】
①今回の活動で何を学びましたか?
・質問の出し方。
・発想を出しきることで学べる。
②自分で質問できるように学ぶことはなぜ大切だと思いますか?
・理解したことを自分のものにするため。
・意見を言い合えるから。
・理解を深めることができる。
・自分から他の人へ拡げることができるから。
・自分の考えが深まる。
・疑問がなければ進化していけない。
③質問づくりを通して、どんな感じがしましたか?
・さまざまな質問があり、班員の発想力に驚きました。
・疑問がドンドン生まれて楽しかったです。
・意外にもたくさんの質問が書けて良かったです。
・分からなければ分からないほど、たくさんの質問が出る。
・ささいなことでも様々なことが関連していて、すごいと思った。
・ルールに従って作るのは難しかった。
・話し合いの数が増えた。
・もっと質問を作れるようになりたい!
・(頭が)疲れました。
・テストを作る先生は、大変だと思いました。
④その他、感想など
・質問の答えが気になりました。
・うちのクラスは話し合いで発展している。
動機付けとグループ内での話し合いの活性化、授業の目標である、自ら学ぶ「アクティブラーナー」を育成するという点とも親和性が高い手法で、さらに短時間で効果的に活用できるよう、生徒とともに練習を重ねていきたいと思います。授業構成にインパクトを与える素敵な本と出会いました。「質問の焦点」については、毎回、焦点づくりのポイントを見直しながら、より精度を上げていきたいと思います。
【参考文献】
ダン ロスステイン、ルース サンタナ、吉田 新一郎 (訳) (2015年9月)「たった一つを変えるだけ: クラスも教師も自立する「質問づくり」」新評論http://www.amazon.co.jp/dp/4794810164
2015IAEVG国際キャリア教育学会に参加~アジアにおけるキャリア教育~
2015IAEVG国際キャリア教育学会に参加してきました。私は、高校生物におけるアクティブラーニング型授業の設計とその授業と社会人基礎力との関連について発表をしてきました。ここでは「アジアにおけるキャリア教育」を中心に、報告をします。
【日本】
世襲制であった第一次産業に就く若者が減少を始め、職業選択の必要性が生じるようになり、就業指導が行われていた。戦後には、プロセスを重視する進路指導が掲げられたものの、受験指導へとシフトしてしまった。そこで、自己理解と進路情報について、キャリアカウンセリングや体験学習を通して理解を深め、次のステップへと進めるようにするため、総合的な学習の時間が設置された。さらに、社会的自律に向けて、コンピテンシーや態度に注目する新しい「キャリア教育」が定義されるようになる。これからの課題として、2060年には人口が2/3となり、職業人も1/2となる。一人ひとりのパフォーマンス向上の必要性がある。
【ニュージーランド】
日本と似たキャリア指導の変遷があった。キャリア教育に毎日一番関わっている家族や保護者へのキャリア教育に関する情報提供は十分であるか?と問題提起された。同時に、キャリア教育を推進する際のリーダーシップについても紹介された。(リーダーに必要な力)①他者が可能と思える範囲を変える、②他者に思いを伝える力、③証拠よりもまずは信念や直感、④言葉を実現する力、⑤違いを乗り越えるため他者を理解する力
【シンガポール】
欧米の影響を受けたキャリア教育が発展している。個々のキャリア開発が国の発展に直接繋がるという考えのもと「Skill’s Future」という新しいプログラムが実施されている。例えば、政府が25歳以上の者にスキルアップのために500ドルを支給したり、体系的なインターシップが行われたりしている。また、未来に向けたキャリア教育やガイダンスも進めており、ICTを活用したe-ポートフォリオなどが考えられている。また、単純なボランティア活動ではない、社会貢献のために学ぶ、学ぶために社会貢献をするということを循環させる「サービス・ラーニング」の重要性も語られた。
【インドネシア】
西洋文化思考のキャリア教育と東洋文化思考のハイブリッドモデルとしてのキャリア教育の重要性が伝えられた。インドネシアでは、300以上の民族が暮らしており、多様性があるが、概ね3つのパターンに分けられること、国として統一した哲学が存在しており、それがキャリア教育にも影響を及ぼしていることが確認された。
【韓国】
若い世代の労働市場が芳しくない。PISAテストでは、数学・理科のスコアは高いが情緒は低い(日本の方がもっと低いようだ!)。これまでは、高学歴で大企業に入ったものが成功者という富士山モデルであったため、地域の成功者をキャリア教育に協力してもらう際に、人材不足があった。これからは、様々な成功者が出る(ピークをたくさん持つ)ヒマラヤモデルに移行していく必要があると話された。
【インド】
キャリア教育は始まったばかりである。今まで人々の多くはワークとして、師弟制度によって仕事をしていた。消費をしないと経済が減速するといった、先進的な考えのもと自らの強みと社会のニーズをすりあわせて働く際に、キャリア・カウンセリングやガイダンスが必要になるのではと提唱された。さらに、伝統的な仕事をしていたものを先進国のアウトソーシングのための工場などに無理に引き込む必要はあるのだろうか?文化に根付いたキャリア教育が必要ではないか?とも伝えられていた。
アメリカの研究者から、仕事における次の3つの態度が紹介されました。
①仕事Job…お金を得るための手段
②キャリアCareer…目標達成の手段
③天職Calling…内在的価値を感じる
天職がわかっている人は、それを目指すためによく生きる傾向にあったり、様々な面での満足感が高く、パフォーマンスも高い傾向にあるそうです。アメリカでは、キャリアプランニングやカウンセリングなどの専門職の方が配置されており、仕事に対する態度を捉え直すための支援も行っているとのことでした。
授業を通し、汎用的能力の向上を目指すことはもちろんですが、生徒一人ひとりが自らを知ったり、天職について考えられたりできるようなカウンセリングとガイダンスを実施していく必要性を強く感じました。日本でもキャリア教育推進法が成立することで、自治体によるキャリア教育のための計画が立てられ、高校でもその活動が進められるそうです。また、先進的にキャリア教育を時間割の中に組み込んでいる学校や自治体もあり、その流れが広がる中で、PBLを含めたアクティブラーニング、サービス・ラーニングなどが今後のトレンドとなるように感じられました。
産業能率大学第9回キャリア教育推進フォーラムにて授業実践
8月に産業能率大学にて、主に高校の先生方を対象としたフォーラムにてアクティブラーニング型授業の実践者として、授業をして来ました。
授業に参加していただいたのは、生物を中心に理科の先生方と社会の先生方が半々くらいで、ALの実践年数が多様でした。そのため、①授業の基本の流れを示すことと、②様々な教科で使用可能なツールを提供すること、③話し過ぎや社会的な手抜き(フリーライダー)を防ぐ方法を示すこと、④深い学びに繋がる活動を入れること、などを意図して次のように進めていきました。
【授業の流れ】
0.休み時間に、カタルタを各班に準備してアイスブレイク
1.授業の目的・目標を示す(しなやかマインドへシフトを促す)
2.KP法にて復習内容の確認(グーチョキパー(GCP)アンケートにて全員参加を促す)
3.看図アプローチ
4.LTDの関連付け
参考:http://albio.hateblo.jp/entry/2015/03/03/230225
5.グラフを用いた看図アプローチ(発展内容、グラフ看図の紹介)
※個人思考後、グループで話す。
出典:東京大学大学院農学生命科学研究科水産資源学研究室、独立行政法人国立環境研究所
- 【関連付け・外挿】
・質量からグラフを3つのグループにわける。
(答:1977~1988、1989~1995、2003~2009)
・( )に当てはまる生物種を予想する。理由を話す。
(答:ア ウニ類、イ 甲殻類、ウ 魚類)
- 【変換】
・グラフの題名、その他読み取ったことを伝える。
(答:東京湾における漁獲量および種数の経年変化)
- 関連記事を読む。
- 堀口 敏宏「東京湾の魚介類の繁殖を阻害するものは何か? 」国立環境研究所HP>環境リスク研究センターHP>りすく村 Meiのひろば https://www.nies.go.jp/risk/mei/mei002_9.html
6.リフレクションカード記入
【感想・コメントなど(抜粋)】
◯ペンギンの持つ可愛さと悲惨な状況というギャップから、学ぼうという意欲が高まり非常によくデザインされた授業だと感じました。
◯誰もが簡単に取り組める、また親しめるペンギンの写真からスタートしてビジュアル的なものを言語化していく活動から、グラフの読み取りというロジカルな活動への移行するという易しいものから徐々に難易度を上げていくという流れが素晴らしかったです。
◯私も酸素解離曲線の授業をした際に、胎児のグラフを予想させて理由を考えさせ、グループで話し合いながら答えを決めていくという活動をしたことがありました。これも看図といえますか?(→「言えると思います。私もグラフの続きを予想させる問題を使うことはあります」と回答)
◯諫早湾干拓のデータかと思いましたが、やられました(→「東京での授業なので、こちらのデータを使いました」と回答)
◯漠然としたテーマから生徒に考えさせるやり方が新鮮でした。
◯高校時代に生物を履修していなかったので、難しいと感じましたが、グループワークを通して様々な意見が聞けて良かったです。
◯看図アプローチ、参考になりました。私も1枚の写真やグラフからの思考、チャレンジしてみます。
◯グループや個人に対する発問や指示がすごく明確で、おそらく全員の先生方が迷わず取り組めていたと感じました。ありがとうございました。またいろいろ教えてください!
◯ニュースにアンテナを張る!!私も実践してみます。
◯グループでの話し合いの方が、教壇からの説明よりもよく頭に入るということがよくわかりました。
◯「KP法」「看図」などたくさん勉強になりました。グラフの読み解きなどすごく面白いのでやってみたいと思います。
◯教科書の内容をすごく早く進まれていることにびっくりしました。私ももっと研究をしてみなければとおもいました。
◯穴埋め式の教え込みに物足りなさを感じています。資料の準備本当に大切ですね。今日のヒントをこれからの参考にさせていただきます。また連絡します。
◯他人が気づくポイントが異なることが面白かったです。
◯期待通り予想以上の授業を受けることができました。授業のとらえ方と思いに共感することばかりでファンになりました。グラウンドルールとコンテンツはすごいなぁと感じながら授業を受けました。
◯リフレクションカードの効果はいかがですか?
失敗できないという思いから綿密な準備を行ったため、ファシリテーションには余裕があまりなく、しっかりと意見を拾いながら進めることができなかった点が反省点でしたが、結果としてとても楽しみながら授業ができました。理科の先生だけでなく、社会科の先生方も混じったことで、多様で自由な意見・発想があちこちで飛び交っていました。例えば、ペンギンのセーターの編み方からイギリスに由来する地域では?と言い当てた先生の観察眼と知識には、私自身新しい発見があり面白かったです。
お互いの意見を組み合わせたり参考にしたりしながら、納得解を作っていく過程は刺激的であることを改めて実感することができました。普段関われないさまざまな地域の方と、実に深く話し合うことができたことも、貴重な経験となりました。これから学習会同士の交流も生まれそうでワクワクしています。皆さんとの出会いと、貴重な機会をいただけたことに感謝したいと思います。